日本の行政には、基本的な考え方があります。

 それは、民間企業が行っている経済活動に、行政がむやみに口を出さないということです。

 たとえば、ある会社が「この商品を売ろう」「この地域に店を出そう」「外国人を採用しよう」と考えたとしても、行政が「その商売はやめなさい」「その人を雇ってはいけない」と、自由に命令できるわけではありません。

 もちろん、法律に違反していれば話は別です。食品衛生、労働、安全、税金、独占禁止法など、法律によって一定のルールが定められている分野では、行政が規制や監督を行います。

 しかし、基本的には、法律で決められていないことまで行政が勝手に判断して、民間の活動を止めることはできません。

 この考え方は、外国人の在留資格にも関係しています。

 たとえば、外国人が「留学」の在留資格を申請したとします。そのとき入管が見るのは、単純に「この人を日本に入れて大丈夫そうか」という行政官の個人的な印象だけではありません。

 申請された資料や本人の状況などを確認し、入管法などで定められた在留資格の要件に該当するかどうかを審査します。

 ここで重要なのは、行政は「怪しいと思った」というだけで、何でも自由に不許可にできるわけではないということです。

 一方、提出された書類について、虚偽や不正が確認されれば話は変わります。実際、入管法には、不実の記載がある文書などによって在留資格認定証明書や上陸許可を受けた場合などについて、在留資格取消しの対象となり得る規定があります。

 つまり、

 「怪しいから行政が自由に排除する」

 のでもなく、

 「書類が出ていれば、何があっても許可する」

 のでもありません。

 法律に基づいて、提出された資料や本人の状況を確認し、要件を満たしているかを判断する。

 これが行政の仕事です。

 ここを理解しないと、「なぜ入管は、こんな人に在留資格を出したのか?」という疑問が生まれます。

 しかし、入管は探偵でも裁判官でもありません。申請者について「本当は何を考えているのか」「将来、法律違反をする可能性があるのか」といったことを、行政官の個人的な想像だけで判断することはできません。

 反対に、審査の過程で虚偽の申告や不正な資料の提出が確認されれば、それは別問題です。実際、出入国在留管理庁は、申請に必要な資料について、審査の過程で追加資料を求める場合があることも明示しています。

 これは、ある意味では民間企業に対する行政の姿勢とも似ています。

 行政は、企業の経営者に代わって経営をするわけではありません。

 「この会社はもっと儲かる商品を作るべきだ」

 「この店は別の場所に移転したほうがいい」

 などと、行政が企業の経済活動そのものを決めるわけではありません。

 民間は民間、行政は行政。

 民間が自由に活動することを基本とし、その自由が法律によって定められた範囲を超えたときに、行政が介入する。

 入管行政についても、同じように考える必要があります。

 「なぜ入管は、もっと厳しく調べないのか」と疑問を持つことはできます。しかし、その答えを考えるためには、単純に「入管が甘いから」と考えるのではなく、そもそも行政には、法律に基づかずに民間や個人の活動へ自由に介入する権限がないということを知っておく必要があります。

 行政が何でも決める社会ではなく、法律の範囲内で行政が動き、その外側では民間や個人が自由に活動する。

 この「行政ができること」と「できないこと」の境界線を理解することは、入管問題を考えるうえでも、とても重要なのです。


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