はじめに――「外国人摘発強化」のニュースに感じる違和感
近年、「外国人対策の強化」「在留管理の厳格化」「偽装留学生の摘発」といったニュースが続いています。SNSでも「外国人問題」や「留学生問題」が大きな話題となり、多くの人が関心を寄せています。
私は30年以上、日本語学校で留学生を指導してきました。
その立場から率直に言えば、不法滞在や資格外活動、制度を悪用する外国人への厳正な取り締まりには賛成です。日本で生活する以上、日本人も外国人も法律を守ることは当然であり、違反行為には国籍を問わず適切な対応が求められます。
しかし、報道やインターネット上の議論を見ていると、一つ大きな違和感があります。
それは、「問題の本質」が十分に語られていないことです。
「偽装留学生」という言葉だけでは現状を説明できない
一時期、「偽装留学生」という言葉が社会問題として取り上げられました。
日本語学校へ通うことを名目に来日し、実際には働くことを目的としていたケースがあったことは事実です。
しかし、現在の外国人受入制度は当時とは大きく変化しています。
近年では、就労を目的として来日できる制度が以前より整備され、外国人労働者を受け入れる仕組みも拡充されました。そのため、就労だけを目的とする人が、あえて留学生という在留資格を利用する合理性は以前より低くなっています。
もちろん、現在でも制度を悪用するケースは存在します。
しかし、それだけを見て「留学生問題=偽装留学生」と考えてしまうと、現場で起きている本当の変化を見落としてしまいます。
真面目な留学生こそ風評被害を受けている
30年以上、多くの留学生と接してきて感じるのは、一部の問題行動によって最も迷惑を受けているのは、真面目に学んでいる留学生たちだということです。
日本語を学び、日本で進学や就職を目指し、アルバイトをしながら懸命に努力している学生は数多くいます。
その一方で、ニュースでは一部の違反事例だけが大きく取り上げられ、「留学生=問題」という印象が広がってしまうことがあります。
もちろん問題があれば摘発すべきです。
しかし、少数の事例だけで全体を判断してしまうことは、教育の現場にいる者として非常に残念に感じます。
本当に取り締まるべきなのは誰なのか
違法就労は、留学生一人だけで成立するものではありません。
違法に雇用する企業。
制度を悪用するブローカー。
不適切な運営を行う教育機関。
こうした受け入れ側の問題があって初めて、不正は成立します。
つまり、「留学生だけ」を取り締まっても、根本的な解決にはつながりません。
制度を悪用する外国人がいれば摘発する。
同時に、その受け皿となる企業や関係者にも厳正な対応を行う。
この両方があって初めて、公平で実効性のある制度運用になるのではないでしょうか。
現在、日本語学校が直面している本当の危機
近年、「日本語学校が減っている」「経営が厳しい学校が増えている」という話題も聞かれるようになりました。
これを「留学生が減ったから」「悪質校だから」と説明する意見もあります。
しかし、現場から見ると、もう一つ重要な理由があります。
それは、日本語教育そのものが大きく変わっていることです。
日本語教育は「知識」から「コミュニケーション能力」へ
従来の日本語教育では、
「文法」
「語彙」
「読解」
「試験対策」
が中心でした。
これは、日本の英語教育にも似ています。
長年英語を学んでも、「読む・書く」はできても、「話す・伝える」が苦手という課題が長く指摘されてきました。
日本語教育でも同じ課題がありました。
知識を教えることと、実際に使えることは別問題です。
そこで現在の認定制度では、国際的な言語教育の考え方を取り入れ、日本語を使って実際にコミュニケーションできる力を育成する教育が求められるようになりました。
教師が一方的に教える授業から、学習者自身が日本語を使って考え、話し、伝える授業への転換です。
これは、日本語教育にとって非常に大きな改革と言えます。
「日本語学校が淘汰される」の意味は変わった
こうした教育改革の影響を受け、今後は教育の質が学校選びの重要な基準になります。
もちろん、不適切な運営をしてきた学校は厳しく評価されるでしょう。
しかし、それだけではありません。
従来型の授業から脱却できず、コミュニケーション能力を育成する教育へ転換できない学校も、厳しい競争に直面することになります。
つまり、「日本語学校が淘汰される」とは、「悪質校がなくなる」という意味だけではなく、「教育改革に対応できる学校が選ばれる時代になった」ということでもあります。
感情論ではなく、現場を見て議論してほしい
外国人政策は、日本社会にとって重要なテーマです。
だからこそ、感情だけで議論してはいけません。
制度を悪用する人には厳しく対応する。
真面目に学ぶ留学生は適切に評価する。
そして、日本語教育そのものの質を高める。
これらは対立する考え方ではなく、すべて両立すべき課題です。
おわりに――現場で見えてきた本当の課題
30年以上、日本語学校で留学生を指導してきた経験から感じるのは、「外国人問題」という一言では、現在の状況は到底語れないということです。
制度は変わり、留学生も変わり、日本語教育も大きく変わろうとしています。
だからこそ必要なのは、イメージや先入観ではなく、現場で何が起きているのかを冷静に見つめることです。
「偽装留学生」という言葉だけでは見えてこない課題があります。
教育の質、制度運用、受け入れ側の責任、そして真面目に努力する留学生たちの存在。
それらを総合的に考えることが、これからの外国人政策や日本語教育をより良いものにしていく第一歩になるのではないでしょうか。
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